後編

社会に受け入れられるAIの活用法

一方、会場の参加者からは、企業の社会的責任とAIの倫理的な活用法について質問が相次いだ。

「人は最良の意思決定をしたいだけでなく、それがなぜ最良なのかを知りたいものだ」とIESEの卒業生はコメントした。「それが説明できないと、ついてくる人がいなくなり、意思決定をする意味がなくなるのではないでしょうか?」

福原氏によると、線形回帰型の機械学習では意思決定の要素・結果の因果関係が明確なため、透明性が高い。こうした「ホワイトボックス」に対し、「ブラックボックス」であるディープ・ラーニングでは意思決定の過程が不透明だ。

「自分の目的にマッチした学習形式のAIを選ぶ必要があるのでしょう」と福原氏は述べた。

ディープ・ラーニングの不透明性は、実社会におけるAI化の妨げになるとホイカンプ氏は話す。例えば銀行などは、顧客に信用評価の理由を説明する必要があるが、ディープ・ラーニングを使うとこれが不可能になるからだという。

ディープ・ラーニングを使いながら、消費者から信用を得るにはどうしたらよいか?という質問に対し、ホイカンプ氏は、統計データを顧客に提供することを提案した。例えば住宅ローン申請を却下した顧客に、「95%のケースがこういう結果になっています」といった情報を渡せば納得してもらいやすくなるだろうという考えだ。

野田氏は、業界によっては競争に勝つために、ディープ・ラーニングに頼りがちになり、意思決定の過程や社会的責任よりも、結果と利益に重きを置く風潮がはびこるのではないかと指摘した。

福原氏は、自らの金融業界での経験を振り返り、日常の株の取引きなどにおいては利益を優先し、ディープ・ラーニングがフル活用されているものの、年金ファンドなどでは説明責任性が問われると説明した。

会場の参加者からは、アルゴリズムは人の命にもかかわる問題だとする懸念の声も上がった。例として挙げられたのは、2018年3月に米国アリゾナ州で起きたウーバーの自律走行車による人身事故だ。こうしたアルゴリズムを公の場で使う前には、厳しいチェックや年次点検を義務付ける必要があるか?との問いに、ホイカンプ氏はアルゴリズムの使用目的によっては必須であろうと述べた。

 

AIはビジネス戦略を変える

「我々のビジネス戦略にAIを組み入れたい」

福原氏は、こうした相談をよく受けるという。

しかし現存しているビジネス戦略にAIを追加しても、効率を上げることしかできない。ウーバーやエアビーアンドビーは、最新のビッグデータやAI技術を深く理解し、それに基づいてビジネスモデルや戦略を練ってきた。AIを後づけするビジネスは、AIを土台として一から創り上げたビジネスには打ち勝てないと福原氏は話した。

さらに福原氏は、ビジネスの決め手となるのはデータであるとも強調した。誰もがAIにアクセスできるようになった今、「他の人が持っていない、自分で創出したデータ」が最も重要であるという。

では、AIは経営の現場をどう変えていくのだろうか?

福原氏によると、最近まで、40年前に開発された旧式の適合性テストを主に使って人材が採用されていたという。そこで彼は、ビッグデータを用いて、志願者の情報を集めるシステムと、質問の意図が見えないテストを開発した。

AIを活用した採用や従業員評価のシステムが増えていくに従い人事の手間は減り、ゆくゆくは人事部長ひとりで全てを切り盛りするのが当たり前になるだろうと福原氏は予測する。そしてその部長が、ホイカンプ氏が先に述べたような価値判断や方向づけを行うことになるであろうと福原氏は予測した。

現在、新卒の採用に100名以上の従業員を使う会社もあるという。しかし、人の判断は個人差があるうえ偏見に満ちてもいる。

「なので、最終判断は一人の人間が行うべきです」と福原氏は話した。

これに対しホイカンプ氏は、人事担当者の数は必ずしも減らないであろうと予測する。人材の確保と開発は、組織にとって非常に重要な仕事だからだ。人材採用という活動における負担が、AIの活用によって軽減されれば、今まで十分に手が回っていなかった各部署との連携や、人材ニーズの把握などに注力できるようになる。従って、人事担当者の数は変わらないまま、任務の内容が変化していくのではないかとホイカンプ氏は語った。

 

AI時代に求められるエグゼクティブとは?

現在、ビジネス界で活用されているAIはある特定の問題を解決するために作られたものであり、「総合的な知性ではない」とホイカンプ氏は指摘する。分析や予測にAIが活用されるにつれ、組織の目的を掘り下げて考え、そこに根差した価値判断を行う能力が、これからのエグゼクティブには求められるという。

AIを使いこなせる力も、もちろん必要だ。機械学習とはどんなもので、偏見を帯びたデータがどう結果に影響するかなどをしっかりと理解し、データ担当者に的確な指示を出せることは重要だとホイカンプ氏は話した。

ホイカンプ氏がさらにエグゼクティブに欠かせない能力として強調するのは、AIが目的にかなった機能をしているかといった事柄を見極めていく「批判的思考力」だ。これからイノベーションを導くうえでの鍵となる、とホイカンプ氏は話した。

各業界にディスラプター(破壊者)が現れる一方で、既存の企業も組織の回し方を次々と大改革している。上に立つ者には、組織レベルや部署レベルでの変革、そして仕事の在り方そのものの改変を効果的に導いていく力が求められるとホイカンプ氏は予測する。

謙虚さと適応性も欠かせない。組織にかかわる全ての問題を一人で解決できる人はいない。共に働く人々に耳を傾けて、インプットをもらう謙虚な態度と、激しい変化に対応していける柔軟性が大切だと、ホイカンプ氏は指摘した。

人間性と倫理に富んだ組織を作るにはどうしたらよいか?と質問する参加者もいた。これに対し、ホイカンプ氏は「何を大切に思うかを、行動と言葉で明確に表すことが必要」と述べた。

福原氏は、全ての要素を統合的に踏まえて判断していく批判的思考力が重要であると話した。

野田氏からは、お互いの立場に立った思いやりある意思決定によって倫理を向上させられるだろうとコメントした。

ホイカンプ氏は、テクノロジーの進化は人間の素晴らしい功績だと語る。だが、経営に携わる者は、テクノロジーと人間性の双方を重んじながら導いていける「両利き」でなければならないと強調した。