詳細レポート「FCバルセロナのウィニングカルチャーから学ぶ・いま組織文化が注目される理由」前編

成果が数字として如実に現れるプロスポーツは、ビジネスの世界と共通する部分が多い。経営戦略のヒントを得る目的で、スポーツの攻めや守りの手法がこれまでも頻繁に分析されてきたが、近年は勝つチームの「組織作り」に一段と注目が集まっている。

常勝チームに共通する「組織文化」とは何なのか? そして、なぜ文化は組織にとって重要なのか?多様な背景を持つ選手たちをまとめ、グループとしての力を引き出す文化を生み出すために、コーチに求められるリーダーシップとは?

世界トップクラスのビジネススクールでスペイン、バルセロナに本拠を置くIESE(イエセ)は、激動する世界のビジネス環境を生き抜く手がかりをスポーツに見出すべく、2019年9月2日東京にて、「FCバルセロナのウイニングカルチャーから学ぶ ・ いま組織文化が注目される理由」と題するフォーラムを、アカデミーヒルズとのコラボレーションで開催した。

 

登壇したのは、IESEビジネススクールのラーニングイノベーションユニットのディレクターを務めるマーク・ソスナ氏と、日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターであり、株式会社チームボックスの代表取締役でもある中竹竜二氏。FCバルセロナのウイニングカルチャーに詳しい二人が、その組織論をグローバル企業のケースを引き合いに出しながらひも解いた。

IESEのエグゼクティブ教育部門アジア統括を務める加賀谷順一氏の司会のもと展開したウイニングカルチャーについての活発な議論を、振り返ってみることにしよう。

 

利得に振り回されない「組織文化」が勝利を招く

プロスポーツの勝敗にまぐれは無い。勝利のトロフィーは熾烈な訓練あってこそ手に入るものであろう。しかし、FCバルセロナが史上最強のサッカーチームと考えられるに至った2008~2012年のパフォーマンスを振り返ると、そこには努力や才能といった言葉だけでは説明出来ない「何か」が潜んでいることが見えてくる。

FCバルセロナと共に体験型学習プログラムを提供するIESEで教鞭をとるマーク・ソスナ氏は、この「何か」を「文化」と呼ぶ。

 

2018年5月、既に上昇機運にあったFCバルセロナ(通称「バルサ」)は、かつて同チームのトッププレーヤーであったジョゼップ・グアルディオラを監督として迎えた。その後4年間でバルサは14ものタイトルを勝ち取り、サッカーの最高峰の座に登りつめた。だが、黄金時代はグアルディオラの手ひとつで築きあげたものではない。勝因を探ると「究極的には『文化』にたどり着く」と、ソスナ氏は語った。

「何があのような成功の瞬間をもたらしたか、それを理解するには、40年前に遡って考える必要があるのです」

FCバルセロナのウイニングカルチャーは、1979年に発足したラ・マシアという育成期間で長年にわたって培われてきた。その文化の根底を成すのは人格教育だ。ラ・マシアでは脚より頭と心を鍛えることに重きを置き、学業を優先する。また、どれほどサッカーに長けている生徒でも特別扱いはされず、誰もが内容・量共に同一のトレーニングを受ける。試合でプレーする分数も同じだ。そして、出した結果より、日々の成長過程に焦点が当てられる。

こうしたルールを徹底させることにより、他者を敬う態度を養うのだという。ソスナ氏によると、ラ・マシアには独自の価値観がある。

「それは端的に言うと『心』です」

聴衆のひしめく会場を見渡しながら、ソスナ氏は説明した。

謙虚さ、努力、大志、敬意、そしてチームワーク。

「生徒はこうした価値観を日々意識しながら実践し、後々選手としても同じように振る舞うと期待されています。」

こうして蒔かれた文化の種が、ラ・マシアの卒業生であるグアルディオラ監督の指導下のFCバルセロナで、完璧な形で実を結んだわけだ。

ラ・マシアに多大な影響を与えたオランダ出身のサッカー指導者である故ヨハン・クライフ氏は、全選手が状況に応じて異なったポジションを担うべきという、トータル・フットボールに根付いた信条を持っていたという。

 

「組織のDNA」は、ゆるがない組織づくりの鍵

バルサでは、『攻撃』を『ボールの所有』、『守備』を『ボールの回収』と呼ぶ。

「相手を『破壊する』するのではなく、いかに『美しいゲームを創造する』かを話し合うのです」

彼らの目的は、「美しいゲーム」を通してその裏にある人の生き方を見せることだ。ゆえに、価値観に反するプレーをして勝っても、彼らにとっては意味がない。組織文化を醸成させるためには、そのためのシステムと価値観を貫くリーダーのコミットメントと真のリーダーシップが欠かせない。それが「バルサのDNA」形成の秘訣であり、個人の才能以上の能力を開花させ、チームに圧倒的な結果をもたらすと、ソスナ氏は語った。

 

スポーツ界でもビジネス界でも、「文化」はブランディングの要諦であると同時に、組織の安定剤としても機能する。文化が定着すると、トップリーダーから平社員まで組織のあらゆるメンバーが同じ目標に向かって歩み始めるからだ。一時は月間1000人も新たに採用を行っていたインドのインフォシス社は、価値観という共通項で社内の安定化をはかり、急成長を遂げた企業のひとつだという。

文化はコピーできない。激動する社会を生き抜くには、変化に柔軟に応じる機敏性に加え、内部の安定化が重要だとソスナ氏は説いた。そのためにはパフォーマンスとカルチャーのバランスを見る必要がある。有能であっても組織のカルチャーにそぐわない人材は長期的には文化を乱す要因となるため、すばやく退社してもらえるよう奨励金を設けている会社もあるという。

 

隠れた「文化」が「パフォーマンス」として実を結ぶ

だが、そもそも常勝カルチャーとは何なのだろうか? そして、どうすれば創れるのだろうか?

型にはまった答えはないと語るのは、日本ラグビーフットボール協会でコーチングディレクターを務める中竹竜二氏だ。W杯での日本代表チームの活躍で注目を集める日本のラグビー界で、コーチを育成するのが中竹氏の仕事だ。

 

2007-2008年にかけ早稲田大学ラグビー蹴球部の監督として、同チームを大学選手権2年連勝に導いた中竹氏は、その後U20日本代表ヘッドコーチや日本代表ヘッドコーチ代行も務め、コーチの学びの場を創出・促進する団体「スポーツコーチングJapan」を設立した。ラグビー選手の五郎丸歩も恩師と慕う、選手と組織のポーテンシャルを引き出す力で知られる組織作りの人だ。

コーチ経験なしで早稲田の監督に就任した中竹氏は、「リーダーは率いる者」という既成概念を捨て、選手の個性を理解し彼らに寄りそう「伴走者」となるところからチーム作りを始めたという逸話を常々披露している。IESEのフォーラムでも自身の経歴を振り返り、学生時代に「2級、3級クラスの選手で、戦略やパフォーマンスで勝負出来なかった」にもかかわらず、謙虚に感謝する姿勢から人望が集まり、キャプテンに抜擢された経緯を説明した。キャプテンとなってからはチームを取り巻くコミュニティーとの関係づくりに励み、チームカルチャーの形成に貢献したのだという。

 

中竹氏は、「カルチャー」とは組織を最も深い部分から支える基盤と定義する。「文化」は「立ち居振る舞い」を意味すると考えられがちだが、目につきやすい習慣や行動は、隠れたカルチャーの末端的な現象にすぎないと言う。「組織文化」という土台のうえに「組織風土」が生まれ、そこから習慣や行動が派生し、更にその積み重ねがパフォーマンスに繋がるのだと中竹氏は説明した。つまり、文化が成熟すると、その成果がパフォーマンスという形で花を咲かせるわけだ。

組織文化を変えるには、まずこの構造を理解しなくてはならないと語る中竹氏。カルチャーは一人で作れるものでもない。人々が協働してこそ発展していくカルチャーは組織の基盤を成し、それが変わればパフォーマンスも一変する。これは、サッカーのFCバルセロナでもラグビーのオール・ブラックスでも常勝のチームに共通する点だ。

「だから、誰もがウイニングカルチャーを重要視するようになってきているのです」と、中竹氏は話した。「しかし問題は、それをどうやって開発するかです」

ウイニングカルチャーをどう醸成するかは、組織ごとに異なる。何をもってウイニングカルチャーと見なすかについても、さまざまな説があるという。議論がわかれる中で、中竹氏はひとつの指針としてグローバル・コーチ・カンファレンス(ICC)によるウイニングカルチャーのモデルを紹介した。

それによると、常勝できる文化には、

「信頼し合える環境」

「高い期待」

「チャレンジを与える環境」

「あらゆる手段を講ずる姿勢」

という4つの要因があるという。

 

ラグビー日本代表の元ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズは、侍と忍者をモチーフに、日本らしさを重視する文化でチームの力を引き出したことで知られている。その過程で外国人選手も日本文化をよく学んだという。ジョーンズのケースを引き合いに出しながら、中竹氏はウイニングカルチャーの創り方にひとつのパターンはないことを指摘した。

 

「自分のチームを愛し、お互いへの敬意を持ちながら、自分たちならではの『文化』を創っていってください」

後編に続く)

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