詳細レポート「AI時代における企業経営者の意思決定とは」前編

日々、躍進的な進化を続ける人工知能(AI)。アルファ碁が世界チャンピオンを打ち負かし、自律走行アルゴリズムがタクシーを運転するようになったいま、経営トップの責任である意思決定にもAIを活用する動きがみえている。

自ら学びながら最適な答えを導き出すAIに、何をどこまで、そしてどう委ねるか。それは、世界中のエグゼクティブが直面している難題だ。

世界トップクラスのビジネススクールでスペイン、バルセロナに本拠を置く「IESE(イエセ)」は、この課題に真っ向から取り組むべく、2019年5月17日に東京にて「AI時代における企業経営者の意思決定とは」と題するフォーラムを、アカデミーヒルズとのコラボレーションで開催した。

MITの工学博士であり不確実性のもとでの意思決定分析の専門家として名高いIESEのフランツ・ホイカンプ学長、およびAIに基づく人材採用ツール開発会社「IGS」の創設者で至善館大学特任教授の福原正大氏が登壇し、経営におけるAIの未来について洞察を共有した。

AIと人間をどう使い分けるべきなのか?倫理的なAI活用法とは? そして、AI時代に求められる経営者像とは何なのか?

IESEと2018年からパートナーシップを締結している至善館大学の野田智義理事長の司会のもと、参加者からの質問も交えながら繰り広げられた白熱の議論を振り返ってみることにしよう。

 

ディープラーニングは人間社会を救うのか?

人間は理不尽な動物だ。

それを象徴する例として、福原正大氏は「モンティ・ホール問題」と呼ばれる、3つの扉から「当たり」の1枚を当てる統計学のゲームを挙げた。プレーヤーが左端の扉を選べば、それが正解である確率は3分の1、残り2枚に当たりが含まれる確率は3分の2となる。ここで中央の扉が外れと判明した場合、「残り2枚」を構成していた右扉の確率は3分の2となる。だが、左端を選んだプレーヤーに正解を推測し直すチャンスを与えても、人の大半は回答を変えないという。これに対し、人間に代わるAIのプレーヤーは、自動的に右扉に乗り変える。

このように、AIの利点は確率論にかなった「合理的意思決定」を可能にすることだと福原氏は説明した。

機械学習は、機械が行う「データ分析」のタイプに「学習」のパターンを掛け合わせて実現する。分析には基本的な線形回帰と、人間の脳の働きを模した「ディープ・ラーニング」を駆使した非線形回帰の2タイプがある。 また、学習には正解データを予め与える「教師あり学習」、AIが独自に答えをみつける「教師なし学習」、そしてAIの行動の結果に報酬を与える「強化学習」の3種類がある。AI開発の先端を行く最も重要な研究は、自律走行自動車の要でもある「ディープ・ラーニング」だと福原氏は話す。

では、経営の現場でAIはどう役立つのだろうか?

「自分に適切な人材を選べる自信はありますか?」

福原氏は、人事を一つの例として、会場を埋め尽くすフォーラム参加者にそう問いかけた。

「自信がある」と挙手したのは、2人のみ。「人間にしかない、相手を読み取る力というものがある」とコメントする参加者に、福原氏はその力を持って何を判断しているのかと聞いた。人間には偏見がつきものだと福原氏は強調する。出身校名から性別に至るまで、偏見の要素は限りなくある。

もちろん、AIを使えば問題が全て解決するというわけではない。アマゾンが、女性への偏見を示したAI採用ツールの開発を打ち切ったというニュースは記憶に新しい。だが、これは人間がAIに与えた判断基準に偏見があったからだと福原氏は指摘した。

「データにバイアスがある。これは、AIの問題というより、人間の問題なのです」

一般的に、就職面接で志願者の創造性を見抜くのは難しい。それは、志願者に自身のことを語らせるばかりで聴く力を試さないなど、能力の判定方法に問題がある、つまり、より良い人材を選ぶには、判断基準を設定するところからAIに任せればよいのではないか、というのが福原氏の考えだ。

 

 

取材・文責:H&K グローバル・コネクションズ

 

中編に続きます。