どこにも書かれていないIESE MBAの真実 – MBAアドミッションズ 西田 朋史

 

IESE MBA日本人卒業生K.M.(匿名希望)氏の持込企画として「どこにも書かれていないIESE MBAの真実 – MBAアドミッションズ 西田 朋史」が実施されました。

 


早速ですが、ご自身も2016年のIESE MBA卒業生でいらっしゃる西田さんですが、IESE MBAに行って良かったですか、行かなかった場合に想定される人生と比べてみてどうでしょうか

元々、新卒で第一志望で入った企業に6年勤めており、比較的恵まれた経歴を歩ませてもらっていましたので、私費受験生の中でも相対的に海外MBA入学以前の前職での幸福度は高かったものと予想します。それでも、IESE MBAに行った今の人生の方がほぼ全ての側面において充実していますね。唯一明確に劣後するのは、前職がスポンサーしていた東京ディズニーリゾートの大幅割引チケットが今は二度と手に入らないことですね、その旨味を活かしていた時期分も含めてたぶん100回くらい通ってきたので、それなりに痛手です 笑 しかし、冗談抜きにこれ以外に今の人生で劣後している点が何も思い当たらないのが正直なところです。

(参考:なぜMBA、なぜ欧州、なぜIESE、なぜ入学審査:西田朋史さん(MBA Class of 2016)

 


とはいえ、IESE MBA中には色んな葛藤・出来事があったものと想像しますが、正直、後悔した瞬間などは期間中にありませんでしたか

後悔とまでは言わないのですが、サマーインターンシップを含めた仮説検証を経た上で、典型的なMBA卒業後のキャリア(戦略コンサル・金融・テック・ヘルスケアなど)に大して興味が持ちきれないことを確信してしまった時にはちょっと困りましたね。この点、MBA採用市場に明るいヘッドハンダーとの対話も含めて一定の吟味を受験段階でしていたつもりでしたが、正直見通しが甘かったようです。幸い、変化球ではありますがIESE MBAの価値を最大限活かしながら、自分の興味と得意分野と結びつけられ、自分の尺度に照らしてキャリア選択上全く妥協のない落とし所を見つけられましたが。

 


そんなIESEの校風をどう表現されますか

「競争的な成績評価システムと良い意味で矛盾する協力的な校風」ですね。成績評価システムは、相対評価で、自身の授業中の発言の質量が一定の重み(目安として科目総合平均40%)を持つので、約70人の教室で自分の意見を発言したり議論に乗っていかないと卒業できないという意味で、競争的な側面を否定することはできません。ケースメソッドが主体なので読んで分析するという意味で準備の負荷が大きいことと併せて、学生にかかる圧力は恒常的に(おそらく多くの他校比で)大きいですが、そんな中でも他人を蹴落とすのではなく、自分の持つ要素で助けになり得るものを、見返りを求めることなく惜しみなく提供していく奉仕の精神を学生が持ち合わせています。これは非常に美しいことだと感じます。単に協力的かというだけではなく、負荷が大きい中でもこれができる技量と器量があるかという点が肝です。

 


ケースメソッドについて、良い面・悪い面色々あろうかと思いますが、どうお感じになっていますか

効率的な学び方かというと決して最適な解ではないと思います。各ケースにはそれなりに余分な情報も含まれていますからね。言い換えると、必要に応じた読み飛ばしなど一層技術的な側面も含めて、情報の取捨選択をする能力が自然と身につくわけですが。他方、昨今、人工知能の発展によってビジネススクールでわざわざ学ぶ必要があるのかという論調もあります。これはその通りで、今後の受験生は慎重に吟味すべき点でしょう。しかしながら、ケースメソッドはその特性上、教授から学ぶというよりも国籍・職業上多様な学生から学びを得る側面の方が強いくらいで、それすなわち人工知能で捕捉できない可能性が極めて高い学びに満ちていると言えます。したがって、人工知能の発展に伴って、ケースメソッドを主体とするIESE MBAにおける学びの相対的価値は相対的に高まっていると言えるとさえ感じています。

 


特に印象に残っているケースなどはありますか

MBA卒業生のキャリアが登場人物として描写されたケースに一定の頻度で遭遇しましたが、そこで描写されている状況と自分を重ね合わせて自分が卒業後こういう生き方をしたいか、と自問自答できたケースは印象に残っていますね。世間的に大成功と言われているキャリアでもその描写ぶりによってこうなりたくないなと強く感じた事例、つまり反面教師とした事例も複数ありました。これは、既に述べたケースメソッドのやや非効率的な部分がもたらす怪我の功名と言えるかもしれません。一般には想起されにくいケースメソッドの1つの効用ではないでしょうか。

 


IESE MBAにフィットする人というのはどういう人だと感じますか

2つあります。まずは、自身を鍛えることへの関心が強い人です。ここまで述べてきたケースメソッドに加え、年間固定の約9名のチームで毎朝1時間授業の予習のための会議が必須なチームワークの負荷が大きいですが、それらを通じて国際的な環境でリーダーシップを発揮できる能力を鍛える意味では随一の環境です。そんな環境に対し不安に感じることもあるでしょうし私も色々歯がゆい思いをしたことがありますが、そこにそれ以上に魅力を感じられる人がフィットする気がします。

もう1つは、職業人としての幸福を超えて個人としての幸福の意味をもこの機会に追求したい人です。これは、バルセロナという、気候面を中心として居住環境面で卓越した都市のMBAに通うという点が関係します。例えば日本と比べて、バルセロナでは驚くほど活き活きと幸せそうに生活している人を一層多く見ることになるでしょう。そんな環境は、既述の点の追求に理想的と言えます。ご家族連れの場合は、帯同メンバーも含めてです。これら2つが羅針盤になりやすいでしょうね。

 


日本からのIESE MBA受験生数は昨今どうなっているのでしょうか

具体的な数は非開示で、卒業生や在校生にすら伝えていません。しかし、過去5年を見ると、増えたり減ったりで、大枠としては安定していると言えます。日本からの海外MBA進学者全体は、感覚値ですが緩やかな減少傾向にある気がしますので、そんな中で堅調と言えるでしょう。

 


日本からのIESE MBA受験生のプロフィールについて気になる点はありますか

あくまで総論としてですが、正直、平均的にあと1-2年以上早く入学することを検討して欲しいと思っています。これは、入学時期を自分で指定できないことが基本の社費生についてではなく、私費生についてです。為替とインフレの影響による金銭面が背景となりやや遅れがちになることは理解しますが、おそらくそれが背景の全てでないこともおよそ確信しています。日本独特とも言える昨今の学び直しの風潮は一般的には良いことだと思うものの、キャリア形成、特にMBA卒業直後の採用についてはやや話が別です。個別性もそれなりにありますが、入学時期が遅すぎるとリスクは増します。この点について啓蒙するあるいはできる市場関係者が少ないことにはやや失望していますが、私がキャリア・ディベロップメント・センターの一員としてMBA採用企業と対話を重ねた上で本件を指摘していることにも注意を払っていただけると良いと思います。

 


金銭面について指摘がありました、日本からの受験生にとっては為替とインフレゆえに辛い状況が続きますが、奨学金関連で何か対策は取られていますか

世界平均水準以上に奨学金を拠出する努力を日本市場に対して行っています。現時点では、奨学金について一般的な対外的メッセージとしては、学費の最大約50%を奨学金でカバーできる可能性があり、奨学金志望かつ入学者全体に対しての付与率は約40%です。対日本では、上限(規定及び付与実績)はおよそ変わりませんが、同付与率はMBA Class of 2025向けには約70%でした。現在進行形なのでMBA Class of 2026向けにどうなるかは予断できませんが、ある程度近いラインを目論んでいます。

これが実現している背景として、日本からの受験生が他国比で優秀だからという美談に仕上げることもできなくはないのですが、実際は私の内部的暗躍があります。言語障壁を一因として他国からは見えにくい日本の特筆事情を掌握している人間を入学審査委員会内部に有していることの利点をMBA受験生の皆さんが享受できる文脈だと思っていただいて構いません。もちろん各受験生が入学審査プロセスで示すパフォーマンスがあってなんぼなのですが、この点は引き続き強く意識して活動していきたいと考えています。

 


日本からのIESE MBA受験生の属性に話を戻して、提出スコアについて特筆すべき点はありますか

強調しておきたいのは、受験生の皆さんの努力は間違いなく尊敬に値するものの、英語(TOEFL/IELTS)のスコアについては、入学審査の過程で驚くほど考慮されていないという点です。ここ最近の入学審査委員会で日本人受験生に限らずTOEFL/IELTSについて議論した記憶が全くありません。その背景として、実際の英語の運用能力は、ビデオエッセイとインタビューとアセスメントデイで事実上全てが測られているという実態があります。英語の四技能の中で究極的にはGMAT/GREには読解力しか関係しないという前提を踏まえ、読解力について一定の素地ができた段階でできる限り早めにTOEFL/IELTSからGMAT/GREに移行される戦略をお勧めします。

 


英語はテスト以外の文脈で聞けて話せてなんぼと理解しました、いわゆる純ドメには辛いところもある話かと思いますが、彼らにとっての良い対策法はありますか

万能薬とは思いませんが、日々の生活の中で可能な部分を英語漬けにすることです。最も制御できない分野は仕事関係でしょうから、そこは割り切るとして、それ以外の部分で日本語を極力断ち切れると良いと思います。例えば、ニュース・ドラマなどは全て英語で(可能なら/必要なら字幕付きで)聴く・読む、携帯電話の設定を英語に切り替える、英語を一定程度話せる人とはプライベートでは英語でやり取りする、Grammarlyをデフォルトでデバイスに入れて自分が書く英語を常に自動修正できるようにすることをルール化するなどです。仕事であまり英語を使わない受験生は、仕事の多くを英語で捌いている受験生に英語のインプット・アウトプットの両面で量的に追いついていく/喰らいついていく必要があります。さもなくば差は開くばかりで、これは大変恐ろしいことです。日々のオンライン英会話などを含めたTOEFL/IELTS/GMAT/GREの直接的な対策より一歩踏み込んだ、上記のような対策が望まれます。

一般的な助言よりも負荷が高い内容を述べている自覚はありますが、英語のシャワーをストレスと感じない/感じにくい体質に持っていくことは、遠回りなようで近道な基礎体力作りと感じます。そこから更に高いレベルに昇華するのがIESE MBAの真骨頂ですので、完璧主義に陥る必要は全くないのですが、最適な対策としてはこういった内容が真っ先に思い浮かびます。

 


IESEは英語圏の学校ではありません、英語力の伸びという点について疑問の声もあると思いますが、その点はどう考えますか

キャンパス外での生活に必要な英語という意味では最適な学校ではありません。その点で英語圏の学校に劣後することは疑いの余地がないでしょう。他方、先程述べたように、ケースメソッドとチームワークの濃度は突出しており、すなわち多様性/国際性豊かな環境で、強制的に自分が発信者となり、チームをリードする訓練所としての偏差値は相当高いものと考えます。英語ネイティブの学生に囲まれる度合いを反論として持ち出すことは可能ですが、ネイティブの英語が世界の英語の全てではないのは昨今の人口動態からしても自明だし、ネイティブの英語に慣れていれば他の英語アクセントに柔軟に対応できるかというと必ずしもそうではありません。また、他のノンネイティブの学生がどう英語に向き合っているか学べる文脈が無数にあるというのは、少なくとも自分にとってはベンチマーキングの観点で大変貴重だったし、彼らから色々盗んだ点もあります。例えば、英語圏で教育を受けてこなかったイタリア人にとっても英語ネイティブに囲まれた際に直面する挑戦は極論日本人のそれとほぼ変わらないわけですから。結論、自分が何を英語面で期待するか次第かと思われますが、非英語圏の学校の割に英語を伸ばせる側面が相応に強いと大雑把に結論づけても問題ないのではないでしょうか。

 


先程ビデオエッセイについて言及がありましたが、運用一年目、ここまで振り返ってみて何か特に気になることはありますか

面接にも言えることですが、受験生が原稿を読みながら回答している場合、それは簡単に察知できます。特にビデオエッセイの場合、それは入学審査委員会の誰しもが閲覧できる形で記録されます。回答自体の出来に関わらず、原稿を読んでいるという事実が残す印象は非常にネガティブなものになります。本当に気をつけていただきたいのであえて強い言葉を選びますが、そこで残したネガティブな印象を他でどう挽回できると当該受験生は考えているのだろうか(自分が取っているリスクの大きさを理解しているのだろうか)、と正直不思議に思ってしまうくらいです。自分自身が受験当時広義の純ドメに当たる立場だったこともあり不安な気持ちゆえの行動であることはよくわかりますが、こういった振る舞いはくれぐれも避けることを強くお勧めします。逆に言いたい項目を取りこぼさないように、事前に箇条書きしたメモに10-15秒に1回くらい目線を落とすなどの動作は、特に問題なく許容範囲かなと思います。

 


ご自身のアドミッションとしての立場をどう客観視されていますか

色んな回答法が考えられる質問ですね。まず、既に指摘した通り、私がキャリア・ディベロップメント・センターの一員でもあるという点を再度強調しておきたいと思います。他校を見てもそういった存在は希少なはずです。この特性ゆえに、キャリア・ディベロップメント・センター側での所掌でMBA採用企業その他との折衝から蓄積した知見を念頭に、入学審査プロセスにおいては私費生の就職/キャリア発展可能性には注意をしっかり払っています。入学審査にしか所掌がない人間以上にこの点に注意を払うインセンティブがあります、なぜなら仮にこの点で後々苦労する方が入学すると、自分自身のキャリア・ディベロップメント・センター側での仕事が困難になるからです。基本的には、MBA受験生個人の将来に対して無責任な決定を入学審査プロセスで下さないという意味でポジティブな面が多いはずです。言い換えれば、入学後もしっかり伴走させていただきます。

また、これまでアジア・中東での幅広い国の入学審査を担当してきましたので、日本を他国比で客観視することにも多少は長けているかと思います。日本などごく一部の国だけ担当している方と比べて、日本人の中だけで比較するのではなく、そういった他国の人たちから特定の日本からの受験生がどう受容されるか/解釈されるかという点も加味しながら包括的な判断をできている可能性があるのではないでしょうか。

 


私費生についての話をここまで何回か聞いてきましたが、社費生について何かコメントはありますか

どうしても私費生の話が多くなりがちなのは、キャリアという重みのある構成要素について、派遣元に帰還することが原則のはずの社費生についてキャリア・ディベロップメント・センターにてすることが実質何もないのに対し、私費生はてんこもりという事情があり、それに尽きます。決して社費生を軽視しているわけではありません。

むしろ会社に選抜されているという事実が裏付けする社費生の安定感は抜群のものがあり、極論誰でも応募でき得る私費生のそれとは大きく異なります。但し、社費派遣会社の内部選考基準は、幸か不幸か私が日本人なのでわかってしまいますが政治的な背景が絡むものも含めて入学審査委員会のそれとは一定の乖離がある場合もありますので、適切に再度吟味されます。また、安定感はあくまで平均的な話なので、私費生の中で飛び抜けている方が社費生よりも優秀と解釈されることは十分あり得ます。他方、私の所掌ではないですが、ビジネススクールのエコシステムには企業向け幹部研修が2本柱の1つとして君臨しており、社費生受け入れによりそちらとのシナジーを見出していきたい、それよりも一層大きな話として社費生の派遣元として例えば考えられる日本の大企業とのパイプを強固なものにすることによりIESEの日本での存在感を一層大きくしていきたいという思惑もあります。こういった点を総合的に勘案しバランスの取れたアプローチを心がけています。

 


今後、日本でのIESE卒業生コミュニティについて期待する姿はありますか

既に300人前後の卒業生がおり基盤は着実に強固になっている自負があります。質を伴った規模拡大が引き続くと良いなと思いますが、その中でこれまでやや少数派だった属性の方々が増えればいいなと思っています。例えば、女性や日本在住の外国人です。前者については他でも色々情報が出ているので割愛しますが、後者については、特に日本語に必ずしも堪能ではない方を念頭に置いています。微力ながらこうした点が日本自体の国際化に寄与すれば良いなと思います。そういった方たちに居心地の良さを感じてほしいので、IESEの日本在住の受験生向けで一定規模以上のグループセッションでかつ私が直接関与するものに関しては極力英語で実施してきましたし、今後もこの方針で実施していきたいと考えています。

 


最後に、日本からのIESE MBA受験生に向けたメッセージをお願いします

2つあります。まず、私自身の立ち位置・使い方についてです。IESE MBA卒業からずっとこんな特殊な仕事をしていますので、私自身がIESE MBA受験生にとって羨望の眼差しの対象になりにくいことは自覚していますし、そんなことは私にとってはどうでも良いです。しかし、私自身はIESE MBAのエコシステムをうまく活用して前進していく卒業生・在校生に囲まれていて、そんな人達を年々事例として蓄積しています。つまり私自身は平凡で怠惰な人間ですが、むしろ彼らが努力/成長/成功すれば努力/成長/成功するほど、IESE MBA受験生にとって潤滑油としての私の価値は向上していることになります。具体的には、例えば、特定の方面についての関心を示していただければ私から事例として紹介できる可能性が時が過ぎるごとに高まっているわけです。これを踏まえ、ぜひ私を上手く活用してください。できる限りの支援をさせていただきます。他方、人工知能の文脈でも指摘されることですが、活用主体による適切な問いが肝となりますのでご留意ください(逆に言うと、人工知能出現以前から、「自分が質問したい質問が何かわからないのが一番致命的」と勉強などの文脈でも指摘されてきましたね)。

次に、IESE MBA受験における外部環境についてです。新型コロナウィルス収束前後からの為替とインフレによる、日本からの海外MBA受験生にとっての向かい風環境は心が痛むものがあります。金銭事情で、海外MBAの中あるいはそれ以外でもう少し選びやすい選択肢に流れてしまう方もいるでしょう。できることに限界はありますが、前述の通り、奨学金に関して、可能な範囲で内部における影響力を行使してこの状況に対応し得るものを提供できればと考えています。美辞麗句でまとめる気はないですが、そんな環境だからこそIESE MBAを目指すことの希少価値は数年前比で高まっているでしょうし、実際に、在校生から滲み出る覚悟のレベルも一段上がってきている印象を受けています。海外MBA受験に限らず、数年前に常識的だった内容を前提に意思決定が下せない文脈が日本に満ちあふれている印象があります。全く簡単な環境ではないですが、そんな中でも力強い一歩を踏み出そうとしている方々を応援していますし、その一部としてIESE MBAを検討いただければ幸いです。