卒業生の活躍:清水慶太さん(MBA Class of 2016、非伝統的キャリアバックグラウンド)

航海士として4年間ユニークなキャリアを積んだ後、欧州トップクラスのビジネススクールであるIESEビジネススクールのMBAプログラムを2016年に卒業し、以降、東京の某戦略コンサルティングファームにて活躍する清水慶太さんに、大胆なキャリアチェンジを含むこれまでの足跡と今後の展望について伺いました。

 


そもそもなぜ航海士に

私は、大学卒業直後に海運会社に入社し、その中でも航海士としてキャリアを開始しました。卒業した大学を踏まえると珍しい選択だったので、これまでもたくさん「なぜ、あえて航海士?」と質問されてきました 笑。フィリピン人など多国籍の仲間と船上という閉鎖空間の中で切磋琢磨しながら7つの海を超えてモノを運ぶという仕事が単純に面白そうと考えたこと、海技士という国家資格を片手に自律的なキャリア形成をしたいと思ったこと、キャリアのブルーオーシャンといえる領域で他人とは違った生き方をしたいと思ったことが、航海士という道を選んだ理由です。

この選択がキャリア上のリスクになるという捉え方はしていなかったです。入社後10年から20年の内に、航海士としての経験を踏まえて、輸送・海洋に係る新規事業に関わりたい、具体的には、ビジネスサイドと海の専門知識を両輪として、当時から盛んであった新興国での港湾開発や、海洋開発等の新規プロジェクトに携わりたいと思いました。そして、入社して30-40年経った頃には、同社の経営陣に名を連ねていたいなと、漠然とイメージしていました。

 


航海士が海外MBAを取ることはできるのか

私が海外MBAを目指した理由は一言で言えば、キャリアチェンジでした。

誤解されがちなのですが、海外MBAは、入学前の特定のプロフィールの方のみを受け入れるものではありません。確かに特定のジャンルのプロフィールを好む学校もありますが・・・どんなバックグラウンドであれ、何かしらの専門性を高める努力をして結果を出してきた人には誰でも価値を創出可能です。また、何をしてきたかだけではなく何を目的として何をしてきたか、と、これからどうなりたいか、が重要で、そのために海外MBAが必要な理由が有機的に結びつくことが肝要だと思います。逆にそれが結びついてなければ、金融・商社・コンサル等、いわゆる王道のキャリアを入学前に持っていたとしても、海外MBAを目指すことは困難です。

海外MBAを目指す上でのロールモデルは特にいなかったですが、海外MBAホルダーあるいは在校生のうち、「典型的な海外MBA前のキャリアじゃないんですけど…」と自己紹介してくださる方は、とても参考になりました。そういう人に触れ、自分との共通点・相違点を確認することで、自分のありたい姿が一層見えました。

その上で、IESEビジネススクールを選んだのは、思いっきり勉強できる環境を提供してくれて更に実践寄りなケースメソッドを重視したカリキュラムを提供していたこと、キャリアチェンジを考えていたので世界のビジネススクールにおけるランキング(2014年入学当時世界7位)を重視していたこと、新興国での事業に興味があった自分にとってサンパウロやナイロビでの2週間のプログラムを有しており、地理的にもアフリカや南米へ近いこと、などが魅力的だったためです。

 

 


ビジネス経験が欠けていたことで在学中に苦労しなかったのか

知識面で苦労したという感覚は、実はさほどありません。自分は航海士でありつつ企業人だったのでしっかりアンテナを張る努力をビジネススクール受験前からしていましたし、そのために財務・会計の基礎知識は独学習得していました。ただ、ビジネス経験に基づいた他者への貢献という点では、経験不足のために苦労しました。

IESEビジネススクールの授業には2つの側面がありました。1つ目は、授業で扱う内容に、基礎的な事柄を網羅的にカバーしたものが多かったということです。どちらかというと、入学まで経営に近い立場で働いてこなかった人にとっての学びがより深まりやすい授業だったとも言えるかもしれません。

2つ目に、カリキュラムの構成上、在学中の2年間で700くらいの分量のケースをこなしました。ケースについて、チームやクラスで議論をすると、個々のビジネス経験に基づいたコメントがどんどん出てくるので、内容と学びの幅が深まりました。具体的には、「理論的にはこうだけど、実際にはこうだった」というような手触り感あるコメントです。しかしその「実際には~」の部分の経験を多くは詰めていない自分にとってはそのようなコメントでの貢献はあまりできなかったと思っています。ただ、それを補うための努力として、むしろケースの内容を網羅的に把握してわかりやすく整理し、書いてある内容のみを前提として気づきの点をチームやクラスに提供することを心がけました。そのためにはケースの深い読み込みが必要で予習時間が増えましたが、そのための努力は惜しみませんでした。

ケースの内容の整理に関する発言は、各授業の一番最初、議論の皮切りに求められることが多いです。70人のクラスメイトの目線が一斉に集まる中での発言には、割と度胸が必要でした。その時に自分が気兼ねもなく挙手できるようにするために、クラスメイトと飲みに行って関係性を構築することも意識していました。

 


海外MBAがなかったら

IESEビジネススクールでの経験がなかった場合の現在と未来を想像することはもはや不可能なほど、自分にとってあの2年間には大きな意味がありました。

もし留学せず海運業界に残っていたとしたら今頃、航海士として一通りの経験を積んで、少しずつ陸上勤務に求められるスキルセットを習得している段階でしょう。航海士育成の仕組みは数年単位で社内にて明確化されていますし、国内あるいは社内で自分が働く機能を迅速に変えていくことは難しいです。IESEビジネススクールで2年間学んでいなければ、今は航海士としてのスキルを習得し、徐々に陸上での業務をサポートしている段階ではないかと思います。

海外MBAなくして、今のように業界やテーマが多岐にわたるプロジェクトでクライアントと直接協働や、プロジェクトマネジメント、ジュニアメンバーとの連携など大きな裁量を任されることはなかったかな、と思っています。

 


海外MBAが現職にもたらしている効用

まず、チームでのプロジェクトの進め方があります。タイトな締切が定まっている中で多様な意見を組み込みながら1つの解を出す手法や考え方を日々のケースで培ってきました。

次に、ビジネスや、それをとりまく世界を相対的に見ることができていると思います。会社内での諸機能が組み合わさることで企業が成り立っていることが頭の中で整理されていますし、国籍・バックグラウンド・年齢に関係なくIESEビジネススクールで議論を重ねることを繰り返したことによって、自分の考え方が絶対に正しいあるいは中心なんだという固執した考え方ではなく、自分の考え方は複数あるうちの考え方であり、その中から最適な考え方を探そうという姿勢が身についています。その姿勢があるからこそクライアントに客観的な提言ができると思います。

更に、人的ネットワークです。戦略コンサルタントは、多様な業界のプロジェクトに当たりますが、各業界に大体誰かしら知人がおり、且つ彼らは経営に近い仕事をしているので、当該プロジェクトの経営課題に対して、迅速に自分の理解を深めることができています。

最後に細かい点ですが、同じように海外MBAを取ったクライアントがいれば、最初に会話を始める際に共感を得る道具として肩書も使えますし、社内でもMBAホルダーとして相談を受けたりするなど、ちょっとしたコミュニケーションの入り口にもなっていると思います。

 


今後のキャリア設計

そもそも、IESEビジネススクール卒業直後に、戦略コンサルタントという道を選んだのは、企業活動と事業を早いサイクルで、俯瞰したかったことにあります。IESEビジネススクールで取り組んだケースはその疑似練習でしたが、それを実践して初めて身につくスキルを深めたかったのです。私自身は、自分の人生で心から注力したいものにまだ出会ったとは言い切れないので、逆にそれが明確にある人は魅力的に映ります。好きなことややりたいことが明確にあるもののそれをビジネスにする能力が不足しているがために実行に移せてない人を支援するにあたって、汎用的なスキルを身に着けたかったというのもあります。

10年後は、投資家のような生き方をしたい、と思っています。投資家の「ような」というのは、自分が好きだと思える、または将来性に共感・期待できるものを自分で選び、お金だけではなくて自分のスキル・時間も含めて、投下するような生き方です。方法としては複数あると思っています。例えば、コンサルタントとして経験を積み、自分が共感できる会社とプロジェクトを創っていく、というのもあると思いますし、支援だけではなく事業に腰を据えて課題に取り組む方法もあるかと思います。いずれにせよ、自分が共感できるビジネス・企業・人を自律的に選んで、経営という観点で関与したい、という思いがあります。