本稿は、IESE MBAアドミッションの西田が執筆しており、IESE MBAと日本人学生というカテゴリーにおける連載の一環です。
IESE MBAには、例年10-15名程度の日本人学生が入学しており、この数は全体の規模からしても決して小さいものではありません。
他方、受験段階で彼らがIESE MBAについて誤解している内容も少なくありません。
今回はその実態を解明していきます。
具体的には、スペイン語、奨学金、金融、純ドメ、忙しさの5点をカバーします。
バルセロナでの生活にスペイン語が必要で日本人には適応が難しい?
多少意見が分かれるかもしれませんが、概ね、スペイン語なし/あるいは超基礎レベルで問題なく生活していけると考えられます。
観光業でこれだけ栄えておりスタートアップのエコシステムも根付く都市、バルセロナ、かつ多言語が飛び交う欧州の一部ですので、個人差はありますが、英語が全く通用せず非常に厳しい思いをするといった場面はある程度限られます。
例えば病院の場合、受付の方が英語がやや不自由ということはあっても、いわゆる社会的地位も高いとされる医者の方は英語で問題なくやり取り可能、といったイメージです。
私は過去2年ほどブエノスアイレスやボゴタなどいわゆる南米のスペイン語国/都市を複数旅していますが、そこでの英語通用度の低さとバルセロナのそれは全く異なります。
また、任意選択制であるBusiness Spanish Programについては、アジア人の場合、5割以上がどこかの時点で戦略的撤退をしている印象ですが、それでも致命的な不自由がなく生活していけることを逆に証明しているとも言えます。
そして、もちろん翻訳アプリなども有用で、日本語とスペイン語の間もさりながら、特に言語の近似性が一層顕著な英語とスペイン語の間の翻訳は特に有用で、Amazonの配達員とのやり取りなどもそれを駆使することで十分成り立つでしょう。
なお、やり取りの多い大家さんが英語話者であると容易、フラットをシェアする場合にはスペイン語話者を少なくとも1名入れておくと容易であるといった点は生活セットアップ時に考慮しておくと良いかもしれません。
また、スペイン語なしでの就業機会が多数派ということは決してないですが、業界差もあるものの英語のみでもそれなりに就業機会はあります。
ここ数年の日本人卒業生・在校生でスペイン内でフルタイム・インターンの機会を得ている人で、自分の知る限り、スペイン語必須のポジションに就いてきた人はいないと理解しています(もちろんnice to haveではありますが)。
日本人合格者には奨学金が付与されにくい?
少なくとも近年の実績を見る限り、日本人合格者に奨学金が付与されにくいとは言えません。
日本は未だに先進国扱いとなっておりかつ日本人は英語力も相対的に弱めであるなどの要因ゆえに奨学金を貰いにくいという仮説を立てている日本人受験生に出会うことがあります。
女性向けの満額奨学金であるLaidlaw Scholarship等一部例外を除き、IESEの奨学金は学費の最大半分程度をカバーします。
MBA Class of 2028向けの学費は114,000ユーロでした。
こちらの学年への日本人入学者のうち8名が奨学金に応募し、彼らへの平均付与額は28,000ユーロ(約5,200,000円)で、最高額は60,000ユーロ(男性、約11,000,000円)でした。
これを多いと見るか少ないと見るかは個人が持つ基準次第でしょうが、少なくとも日本人合格者には奨学金が付与されにくいとは言いにくいのではないでしょうか。
また、IESEの場合、学費の一部を卒業後後払い可能なPPA(Post-Graduation Payment Aid)もあり、この財務支援モデルは現時点で他校の大多数に存在していません。
金融に弱い?
金融については、IESEが最強というわけではありませんが、弱いと断じるのも正確ではありません。
IESEは金融に弱いのではないか/金融業界出身者とのフィットが弱いのではないかという疑問も一部日本人受験生の間にはあるようですが、いくつかの観点から指摘できることがあります。
まず、就職面(フルタイム/インターン)について、確かに、戦略コンサルティングほど主流なわけではありませんし、いわゆる金融本流な学校ほど金融業界に飛び込む人が多いわけではありません。
しかし、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、投資銀行にバランス良く実績があります(サーチファンドは金融外と整理します)。
プライベート・エクイティであれば、インテグラル、アドバンテッジ・パートナーズ、ベンチャー・キャピタルだとDGベンチャーズ、投資銀行だとモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスなどです。
あえて言うのであれば、外資系のラージキャップのプライベート・エクイティが実績不足でしょうか。
次に、学業面についてですが、金融の専門知識が既にある学生が1年目の必須科目をやや退屈に感じたりすることはあるようです。
これは、幅広いバックグラウンドの学生を取り込み、1年目にはそういったバックグラウンドの差分に関係なく各分野に素地を築くカリキュラム構成のもと不可避な状況です。
2年目については、中途半端なつまみ食いをしていたり人気科目(Entrepreneurial Finance等)を逃していると満足度が相対的に下がることもあるようです。
しかし、6つあるConcentrationのうちFinanceをしっかり取りにいけば、一定の満足感を得られることが多い印象です。
また、そもそも金融業界出身の方がIESE MBAを志す場合、業界にいるだけでは得ることが簡単ではないジェネラルマネジメント関連のスキルセットを優先的に求めているパターンも散見されます。
純ドメには無理?
ケースメソッドを重視しているため、国際経験(+英語力)で相対的に劣る純ドメにはIESE MBAは敷居が高すぎて無理と勝手に諦めてしまう日本人受験生もいないわけではなさそうです。
IESEの現行アプリケーションフォームには、Yes/Noで回答する質問の1つに、”Have you worked, studied or lived in a different country other than your country of origin?”があります。
この質問へのNoという回答は、日本人受験生の間で一般的に認識される純ドメよりも狭い定義であるとまずはご認識ください。
その上で過去3年、Noが日本人在校生/入学者全体に占める割合は平均約25%でした。
これの解釈は様々ですが、10-15名のうち、25%(2-4名)そういった方がいるのだと励みにすることも1つの解釈でしょう。
また、在校生の成績は非開示で私も個別の詳細を知る手段は限られますが、それでも多少危うい状況になると自然とその状況に気付くことは多いです。
大変興味深いことに、過去2年(入学前のMBA Class of 2028は除く)でそういった状況に陥ったのは、そもそも母数が少ないものの全員Yes側の人たちでした。
No側の人がそういった側面には表れない分野で苦労を色々しているであろうことは一切否定しませんし、英語力で無双しているといったレベルに1年目で至っていることはないでしょう。
しかし、こうした実態に基づくと、純ドメであることを理由にIESEを諦めるのは全く論理的でなく、首をかしげてしまうところです。
ちなみに、当時の私も既述の質問に対する回答がNoの側の人間です。
忙しすぎて勉強以外のことができない?
ケースメソッドに重きが置かれていて予習の負荷が重いがゆえに、忙しすぎて勉強以外のことができないのではないかという疑問は、特にMBA Class of 2025以前の卒業生などから洞察を得た方が持つことがありそうです。
現在でも他校よりは忙しいであろうことは否定しません。
しかし生成AIはあまりに多くの変化をもたらしました。
どこまで生成AIを使うかにも個人差はありやや一般化は困難ですが、これにより予習の負荷が減っていることは、例えばMBA Class of 2027の在校生を見ていればおよそ自明です。
ケースを読まずに生成AIに完全に依存して授業に臨むことは一切お勧めしません。
しかし、個人でこなす段階の予習の中で、ケースを読むこと自体よりも大事なのは、ケースを分析しその主人公になりきって自分の意見をまとめることだと考えられます。
この多少のショートカットに生まれた余剰時間によってMBA Class of 2027の日本人学生は課外活動、就職活動などで一層の幅を見せている印象があります。
例えば、そのうちの1名は、Japan Business Clubと自らが新設したFirst-Gen / Low-income Club(正確には両者ともInitiative)の代表を掛け持ちしています。
時間さえあれば簡単にできることというわけでは決してありませんが、ただこれを可能にしている要因の1つが時間であろうこともまた否定しがたい内容です。
まとめ
以上のように、IESE MBAについて日本人受験生が抱きがちな誤解の多くは、実態を丁寧に見ていくと必ずしも正確ではありません。
もちろん、IESEが誰にとっても最適な学校であるという意味ではありません。
しかし、スペイン語、奨学金、金融、純ドメ、忙しさといった要素だけを理由に、検討段階で選択肢から外してしまうのは非常にもったいないと考えられます。

