IESE MBAに向いている日本人、向いていない日本人

 

本稿は、IESE MBAアドミッションの西田が執筆しており、IESE MBAと日本人学生というカテゴリーにおける連載の一環です。

IESE MBAには、例年10-15名程度の日本人学生が入学しており、この数は全体の規模からしても決して小さいものではありません。

他方、IESEの諸々の特徴に照らして、IESEに向いている日本人と向いていない可能性がある日本人の両方が考えられます。

本稿では後者に焦点を当てつつも、むしろそういう部分を少しでも孕むから安易に諦めるべきということではなく、IESEという環境を最大限活かすためにはどのような姿勢が必要かを考えていただく機会にしていただきたいと思っています。

 


チームワークが嫌いな人

チームワークが嫌いな人はIESEと相性が悪い可能性があります。

どの学校にも存在するチームワークですが、IESEではその濃度が、チームサイズ、チームで会う頻度、チームで会う目的の3点において圧倒的です。

多様性が最大限考慮された約9名のチームにMBA OfficeからMBA初日に割り当てられ、1年間固定のそのチームで毎日1時間、後に続く授業3つの予習をするのがIESEのチームワークの根幹です。

なお、ここでは、状況次第で「和を乱さないこと」をチームワークだと思わないような心持ちの必要性も指摘する必要があります。

日本人は、周囲に配慮し空気を読み集団の調和を守ることを大切にすることが一般的で、これは大きな強みです。

しかし、IESEのような多国籍環境では、黙って場を整えるだけでは貢献にならず、異なる価値観を持つ人たちと、あえて意見をぶつけながら意思決定を磨く必要があります。

反論しないこと、未完成な意見を出さないことは、日本では成熟に見えても、IESEではチームへの貢献不足に見えることがあります。

IESEで求められるのは、単に仲良くする力ではなく、違いを使ってより良い判断にたどり着く力です。

日本人ならではの特性をいい意味で活かしつつ、これをグローバルで期待される内容に調整を加えていける人は、IESEとのフィットが更に高いと言えるでしょう。

 


給与・肩書き・ブランドだけでMBAや世界を見ている人

MBAを通じてキャリアアップしたい、高い給与を得たい、良いポジションに就きたいという動機は自然で、それはそれで尊重されるべきものです。

ただし、それだけが成功の尺度になるとIESEとのフィットは弱くなります。

日本社会では、大学名、会社名、部署名、役職名がある程度信用を左右しがちな文脈があり、そのためMBAも「次のブランド獲得」として見てしまいがちな場合があります。

しかしIESEが問うのは、「どれだけ上に行きたいか」だけではありません。

ミッションにも反映されている通り、その力を何のために使い、誰にどんなインパクトを与えたいのかです。

野心は必要ですが、野心に責任と貢献の文脈がなければ、IESEらしさとは噛み合いません。

 

 


自分の専門領域以外のことを避けたい人

専門性は出願上の大きな強みですが、IESEは専門学校ではありません。

ファイナンス、戦略、マーケティングなど特定領域を深めるだけでなく、経営者として複数の機能、地域、利害関係者を統合して考える力を養う場です。

日本人は、その職掌にある限りにおいては自分の担当領域を正確に守り、専門外のことに安易に口を出さない慎重さを持っており、これは誠実さでもあります。

しかし経営あるいはそれをIESEで学ぶ手法であるケースメソッドにおいては「自分の専門ではありません」では済みません。

専門性を起点にしながら、それを超えて経営全体を見る視座を持てるかが問われます。

ファイナンスの授業で企業の合併・買収についてのケースを扱っていたとしても、企業価値算定のような数値上の話だけでなく、それによって影響を受ける人たちの状況も考慮した議論に発展することもよくあります。

それこそが、カリキュラム構成(1年目必修&2年目選択科目等)にも反映されている、IESEのGeneral Managementの真骨頂です。

 


正解を教えてほしい人

日本の教育では、受験教育の影響ゆえに、正解に早く正確にたどり着く力が高く評価されます。

そのため、MBAでも「このケースの正解は何か」「教授は何を言ってほしいのか」と考えてしまう人がいます。

また、教授が授業の最後に正解を示さない締め方をした際に不満を抱く人がいます。

しかしIESEのケースメソッドは、模範解答を当てる場ではなく、不完全な情報の中で自分なりに考え、発言し、他者の視点を受けて判断を磨く場です。

日本人は、間違えることや未完成な意見を出すことを避けがちですが、IESEでは、その発言が議論を動かします。

求められるのは、正解を待つ人ではなく、不確実な状況で自分の答えを作りにいく人です。

 


自分を変える気がない人

最後に、自分を変える気がない人です。

ここでいう「変える」とは、大きく二つあります。

一つはキャリア(業界・職種・土地など)を変えることです。

もう一つは、キャリア以外の自分を変えることで、具体的には、ものの見方、リーダーシップの取り方、人との関わり方、失敗への向き合い方、自分の価値観の言語化の仕方を変えることです。

IESEのような2年制ないしそれに近いとみなされるMBAに行く意味は、この両方ないし少なくとも片方(特に後者)を揺さぶられることにあります。

夏の実施・参加が主流のインターンシップの価値も小さくありません。

単に知識を追加したいだけなら、短期プログラムでもよいかもしれません。

履歴書にMBAを加えたいだけ、今のキャリアを少し加速させたいだけ、自分の考え方や生き方までは変えたくないという人は、むしろ1年制プログラムや短期のエグゼクティブ教育の方が合っている可能性があります。

日本人は、期待に応え、迷惑をかけず、組織の中で安定して成果を出すことが得意です。

一方で、「自分は何をしたいのか」「どんなリーダーになりたいのか」「何を手放すべきなのか」を自分の言葉で語る訓練は多くありません。

そのため、過去の成功パターンを守ったまま、MBAを上乗せしようとしてしまうことがあります。

しかしIESEが見たいのは、完成された受験生だけではありません。

むしろ、これまでの強みを持ちながらも、自分のキャリアと、自分自身のあり方の両方を問い直せる人です。

弱みがあることは問題ではなく、むしろ問題なのは、弱みを見つめず、変わる必要がないと思っていることです。

また、傍から見てキャリア上一見完成された受験生であっても、自分の前提を根幹から揺さぶりたいという願望を抱える方は一定数おり、そういった方にもフィットするでしょう。

IESEに向いているのは、MBAを単に自分の履歴書に足す人ではなく、MBAを通じて、キャリアだけでなく、自分自身の前提も作り替える覚悟がある人とも言えるでしょう。

 


まとめ

IESEに向いていない日本人とは、日本人的な強みがない人ではありません。

むしろ、和を尊ぶ姿勢、専門性、正確さ、責任感といった強みを持ちながら、それを相対化できない人です。

IESEに向いているのは、日本で培った成功パターンを捨てる人ではなく、世界の中で通用する形にアップデートできる人です。

自分は、これまでの成功パターンを守るためだけにMBAに行くのか、それとも、それを超えるためにMBAに行くのか。

この問いに本気で向き合える人にとって、IESEは非常に大きく成長できる場所だと考えられます。