学長来日インタビュー(企業研修・エグゼクティブ教育編)

2019年5月、IESE Business School(イエセ・ビジネススクール)のフランツ・ホイカンプ(Franz Heukamp)学長が来日しました。ホイカンプ学長は、これまでに5回来日し、自ら地下鉄を乗りこなすほど東京にも詳しく、富士山に2度も登った経験を持つ親日家です。

IESE のエグゼクティブ教育プログラムは、フィナンシャルタイムズの世界ランキングで2015年から1位に選ばれ続けるなど、世界的に高い評価を得ています。今回のインタビューでは、IESE のエグゼクティブ教育が、なぜ世界の企業から高く評価されているのか、日本企業にとっての価値や貢献できる分野、そしてアジア展開の戦略などについて伺いました。

 

 

イギリスの有力経済紙フィナンシャルタイムズのランキングでは、IESEのエグゼクティブ教育プログラムは、5年連続で世界1位の評価となっています。なぜ、このように高い評価を受けているとお考えですか。他のビジネススクールとの違いは何なのでしょうか。

フィナンシャルタイムズのランキングは、基本的に受講者と、そしてカスタム・プログラムの場合はパートナー企業がどれだけプログラムに満足しているかで順位が決まります。つまり、IESEのエグゼクティブ教育プログラムに対して受講者とパートナー企業が非常に満足しているという事なので、大変喜ばしく思っています。

彼らの満足度が高いのは、IESEでは人事や受講者と密にコミュニケーションを取り、会社内での役職によって異なる課題やニーズを把握し、それらに沿ってプログラムを組み立てているからです。

IESEのエグゼクティブ教育プログラムには、さまざまなコースがありますが、大きく2種類に分けることができます。

まず、一つ目が“オープン・プログラム”で、最新のビジネス環境に合わせてデザインしているコースです。取締役から経営幹部、現場のマネージャーなどそれぞれのキャリアステージに合わせて、必要な内容を有機的に組み合わせたカリキュラムです。テーマはリーダーシップや組織論、デジタルトランスフォーメーションなど多岐に渡りますが、基本的にはゼネラルマネジメント、つまり経営者の視座からそれらのテーマを学び、議論します。

経営のテクニカルな内容だけでなく、「個々のリーダーシップ」の成長を促すこと目標とし、ケーススタディやシミュレーション、ロールプレイといった“アクティブ・ラーニング・メソッド”を導入し、体験型の学習スタイルで学んでもらいます。

もう一つが“カスタム・プログラム”で、こちらは読んで字の如く、各パートナー企業のニーズに合わせてゼロから開発するテイラーメイドのコースです。各企業のニーズを的確にとらえるために、かなりの時間をかけて開発しています。その甲斐もあって、フィナンシャルタイムズでも世界1位と、非常に高く評価されています。手前味噌に聞こえるかもしれませんが、大変成功しているプログラムだと自認しています。

コースの開発に時間をかけるため、受講企業が実際に直面している問題の解決策を提供することができ、受講企業から感謝の言葉をいただいくことも数多く経験しています。また、ビジネス環境は刻一刻と変化しますが、IESEのカスタム・プログラムは一度開発したものであっても、必要であればプログラムの途中でもフレキシブルに対応していきます。的確に各企業のニーズに合わせて、テイラーメイドでプログラムを提供する力は、他の学校にはないIESE独自の強みだと考えています。

IESEのもう一つの強みは、グローバルであることです。IESEは世界レベルの教授陣を有していますが、彼らの国籍や専門分野は実に様々です。さらに実務経験も豊富で、様々な国のリアルなビジネスの問題解決について多くの知識を備えています。

さらにIESEは、世界3大陸にキャンパスを持ち、世界中で15以上の提携校を持っています。そのため、1つの国だけで学ぶのではなく、複数の国に跨ったカリキュラムを開発することも可能です。実際、そのように要望される企業も少なくありません。

今やビジネスはボーダーレスで、様々な国の人々と一緒にビジネスをする機会は、今後ますます増えることでしょう。当然ですが、国や大陸が異なれば、ビジネスのやり方も異なります。IESEでは、これらの違いが生じる文化的な背景などについても学ぶことができます。これもフィナンシャルタイムズで高く評価されているポイントです。

 

 

日本企業のマネジメントやエグゼクティブに感じる課題はありますか。それらに対して、IESEはエグゼクティブ教育プログラムやネットワークを通じて、どのようなソリューションを提供したり貢献ができるとお考えでしょうか。

日本には強い製造業と優れたサービス業の企業が多くあります。これらが生まれる過程で、正確さや、信頼性の高いシステム、品質の高さを尊ぶ価値観、即ち、いわゆる「日本流のモノづくり」への誇りも生まれました。これには日本独特の文化も強く関係しています。

これまでは、モノづくりとその支柱となっていた日本文化が、日本の強みだったのです。しかし、これからの時代は、日本人の枠を飛び越える必要があります。そのためには、これまでとは違ったゲームのルールに適応する必要があり、この点において、IESEは日本企業のお役に立てると考えています。

IESEでは、従来の考えや常識を超えて、新しいゲームのルールに適応できるような、ケースメソッドやシミュレーションを使った教育プログラムを提供しています。現場のマネージャーから経営者まで、日本企業の皆さんに活用していただけます。また個人のグローバル・リーダーシップ開発や組織のグローバル化においても大いに貢献できると思います。

これらは、オープン・プログラムにも組み込まれていますし、オーダーメイドのカスタム・プログラムで提供することも可能です。

IESEのプログラムでは、世界の企業のベスト・プラクティスなども学べます。しかし大事なのは、それぞれの企業や組織において、実行可能な独自のソリューションを探し出すことです。

 

 

アジアの主要国では、すでに欧米の有力校が活動を展開しています。IESEとしては、アジアにおいて、今後どのようなポジションを探っていこうと考えていますか。

私たちの基本的なゴールは、アジアの学校や企業と協力して、ヨーロッパやアメリカと同じレベルのエグゼクティブ教育を実施することです。例えば、IESEは、80年代半ばから中国のCEIBS(中欧国際工商学院)と提携し、2つのプログラムを提供しています。

私たちがバルセロナとニューヨークのキャンパスで開催しているAMP(Advanced Management Program)というプログラムは、アジアをはじめ、世界中の受講者を対象としています。今後はさらにアジアからのニーズにも応えていく予定です。

アジアは大きいですし、国によって状況は違いますので、アジアの国々を十把一からげに捉える気は毛頭ありません。現段階でアジアにおいて、我々が重点国として考えている国は、日本と、シンガポールを拠点とした東南アジアです。

特に日本はIESEにとって重要な国です。日本人や日本の企業は、“人”をとても大切にします。IESEも同じ価値観を持っています。組織は「人々」で構成されており、人々のために存在すべきです。これはIESEの信念ですので、IESEと日本の間に自然なフィットを感じます。

今のところ、私たちがアジア、特に日本や東南アジアの企業に提供しているプログラムには満足しています。そのため、アジアで新しいエリアに拡大するというより、しばらくは日本とシンガポールの状況を観察し、その後、次なる戦略を進めていく予定です。

 

フランツ・ホイカンプ(IESE学長)

ドイツ出身。マサチューセッツ工科大学工学博士。
IESEで意思決定論を教える傍ら、事務局長やMBAプログラム担当副学長を務めるなどして、2016年より現職。
企業経営者にとって最適な意思決定とは何か、不確実性の下での意思決定について行動経済学と脳科学の分野から探求するのが専門。また、国別の幸福度についても研究している。IESEの学長としては以下の4つの柱を自らの任務として掲げている。
・IESEの活動範囲の一層の国際化
・高齢化社会における生涯教育の提供
・マネジメント教育、リーダーシップ研修のデジタル化
・社会へのインパクト