ナイロビモジュール(ビジネス面と文化面での教訓)

ナイロビにおける海外モジュールは、IESE MBAのユニークなハイライトの一つです。MBA Class of 2022のジョー・ロボが、この忘れられない一週間から学んだことをいくつか話してくれました。原文(英語)は、こちらをご覧ください。

 

「取れた?取れたのか?」

11月の寒く湿った朝、バレンシアの川を下るボートの上でクラスメートに混じって座っていると、そんな叫び声が聞こえてきました。15組が携帯電話に目を落とし、2年目で最も重要な情報の一つを知ろうとしていたのです。それは、ナイロビにおける海外モジュールに参加できることになるかどうかです。

2年生になると、自分の受けたい授業に応募することになります。Strathmore Business School(SBS)で1週間過ごし、ケニアやアフリカでのビジネスのあり方について貴重な知見を得ることができます。IESEでの経験について卒業生に話を聞くと、このモジュー ルを取るためにできる限りのことをするようにと言われることが多 くなりました。期待は大きかったです。

私は幸運な50人の学生の一人としてポジションを確保し、1月にはアフリカの冒険へと旅立ちました。

 


ケニア時間についての学び

授業が始まってすぐに、ケニアの時間の流れが欧州と違うことがわかりました。授業が始まるのが遅れ、講演者が群がり、昼食や夕食の時間は毎日異なりました。

時速100kmで走り回り、イベントに早く到着することに慣れているロンドンっ子としては、慣れるのに苦労しました。しかし、ケニア人の多くは、時間という概念に柔軟性があることを率直に受け入れていることが分かりました。実際、SBSのEMBAの学生の一人は、「時間は招待状に書くための数字に過ぎない」と言っていた。

このように時間に対してのんびりとしたアプローチには、いくつかの利点があります。イベントはよりリラックスした雰囲気になり、いつ帰らなければならないか常に携帯電話をチェックすることなく、人々と本当に関わることができるのです。しかし、もしあなたが時間厳守にこだわる国からケニアに来たのなら、時間にまつわるすべての抑制を捨て、流れに身を任せる準備をすることをお勧めします。

 


アフリカとケニアは同じではない

当たり前のことですが、アフリカ人でない人(私も含めて)が思い込んでしまうことのひとつです。私たちの多くは、アフリカ人は単一のアイデンティティを持っていると信じているでしょうが、実際はそうではありません。

ケニアは近隣諸国と多くの点で異なっています。確かに公用語の1つであるスワヒリ語は複数の国で話されていますが、ケニアには他にも67の言語があり、キクユ族やルヒヤ族など、多様な異なるコミュニティが存在しているのです。

SBS MBAプログラムのアカデミックディレクターであり、ケニア滞在中の主任教授でもある フレデリック・オゴラ博士が、「ケニアの人々が出身地について話すとき、それは生まれた場所という意味ではない」と話していたのは興味深いことでした。むしろ、一度も足を踏み入れたことがなくても、自分の家族がどの部族の村の出身であるかを話すのだそうです。自分たちのアイデンティティやルーツに対する誇りが、私にはとても印象的でした。

 


ケニア人との交渉

この1週間で私が一番気に入った体験は、ビジネスに対する考え方が似ている国や地域のチームが、ケニアのSBS生と機械の購入について交渉するセッションです。

イギリス人は価格交渉を好まない傾向があり、情報を額面通りに扱う傾向があるように思います。私たちは、ケニアの人たちはとてもリラックスしていて、世間話をしてから合意に至るだろうと思っていました。

しかし、そうではなかったのです。席に着くや否や、彼らはすぐにビジネスに取り掛かりました。あまりに常識はずれの金額を提示されたので、数字に間違いがないか確認するために我々は部屋を出て行くことになりました。ケニア人のSBSの学生たちは、明らかに時間を浪費しているように見えましたが、1時間後、我々は限度額より50セントだけ安い値段で取引を終えることになりました。

ある学生は、我々が席を外している間に我々のメモを見てこちらの戦略を探っていたと、後で酒を飲みながら話してくれました。「ケニア人と交渉したら、おそらく負ける」という重要な教訓を得ました。「メモを丁重に扱うべし」という教訓と共に。

 


賄賂の問題

ケニアでのビジネスについて、アフリカ人以外の人がまず尋ねることのひとつに、賄賂にいくら必要かということがあります。そしてそれは真実であり、この国には賄賂が存在するのです。ナイロビのある上級ビジネスリーダーから、運転中に警官が2度にわたって賄賂を要求してきたという話を聞いて、がっかりしました。しかし、2回とも支払いを拒否したという話は新鮮でした。ケニアでは賄賂が問題になっていますが、それを解決しようという意思はあるのです。

しかし、賄賂には多様な形態があります。賄賂はケニアやアフリカに限ったことではありません。例えば、英国ではここ数年、ロビイングをめぐるスキャンダルが頻発していますが、これは賄賂の水増し版だとも言えます。また、英国のリーダーは同じような経歴や制度を持つ人が多く、家族のコネで職を得たという話もよく聞きます。これも欧米人には汚職とは思えないかもしれませんが、能力よりも経歴が重視されるとなると、何か違和感を覚えます。

 


野心

ナイロビ・モジュールに参加したMBA生全員の心に残る体験は、ナイロビ最大のスラム街、キベラにあるNew Horizon Secondary Schoolを訪問したことだと思います。

16歳の生徒たちと人生経験を共有した時、スラム街観光以外の何ものでもないだろうという私の最初の不安は、見当違いでした。印象的だったのは、困難な状況を乗り越えて週6日勉強している学生たちの向上心です。アーセナルがチャンピオンズリーグに出場できるかどうかを議論しながら、医師やエンジニア、開発者になる計画を聞くのはとても楽しかったです(ケニアの10代はサッカーが大好きなのです)。

更に、ケニアの人々が失業中のヨーロッパ人を怠け者として見ているとオゴラ博士が語ってくれたことは興味深い教訓でした。ケニアの人たちは、大陸でシェフや清掃員などの仕事をする代わりに、家にいて何も稼がないことを好むからとのことです。複雑なテーマであることは理解できるし、完全には同意できないですが、労働意欲の重要性を再認識させられる指摘でした。

 


親しみやすさ

アフリカの人々は温厚で親しみやすいことで知られていますが、SBSのケニア人たちは私の高い期待値をも上回るものでした。スタッフや学生は、言葉から最高のバーやレストラン、さらにはアフロビート音楽の踊り方まで、彼らの文化についてわざわざ教えてくれたのです。予想通り、私は踊りが苦手でした。ステレオタイプは決して廃れることはなく、英国人とその不快になりかねないダンスもまさにそのひとつなのです。

おそらく最も感動的な瞬間は、SBSの学生たちが、地元で人気のある肉料理のレストランにて我々を夕食に招待するためにお金を払ってくれたことでしょう。それだけでなく、ケニアのマサイ族の美しい毛布を一人一人にプレゼントしてくれ、そこには私たちの名前が刻まれていました。

このような瞬間は、自分の文化に関係なく、周りの人たちが歓迎してくれていると感じられるような方法が常にあるのだと考えさせられます。ナイロビでの経験をもとに、もっと改善しようと思っています。

バルセロナに着陸し、自宅に向かう前に同級生のアビアド・ラビノビッチと私は顔を見合わせ、一言「なんて旅だったんだ!」と言いました。たった1週間の旅でしたが、ナイロビで得たビジネスや文化の教訓は、私の中に永遠に残ることでしょう。