卒業生の活躍:黒澤慶昭さん(MBA Class of 2019)

大手金融機関で8年間のキャリアを積んだ後、欧州トップクラスのビジネススクールであるIESEビジネススクールのMBAプログラムを2019年に卒業し、日本初となるサーチファンドを立ち上げた黒澤慶昭さんに、これまでのキャリアや今後の展望について伺いました。

*サーチファンド研究機関を持つIESE Business SchoolおよびStanford Graduate School of Business がトラディショナルサーチファンドと呼ぶモデル。自己資金でサーチ活動を行うモデルや1人の投資家が株式過半数を握るアクセラレーターモデル等の代替モデルを除く。

 

投資を通じた起業

サーチファンドとは、後継者不在の中小企業1社の株式を譲り受けて自らが後継者として経営を承継するモデルで、投資を通じた起業と言えます。複数の投資家から資金調達をするため名前にファンドとついていますが、投資期間は存在しないため、腰を据えて真の企業価値向上に向けて経営を行います。プロセスとしては、会社探し(サーチ)のための活動資金を調達、サーチ(一般的には2年間)、買収資金の調達、買収、そして会社経営という流れになります。事業承継の一つの形として、欧米を中心に海外では400件超の事例があり、近年では中南米、中東、アフリカにも拡がってきています。

 

これまでのキャリアとMBA

前職では経理キャリアを歩んでおり、日本で6年、アメリカで2年勤務しました。アメリカの買収先において経営陣に近い距離で働き、会社全体の情報や経営判断に触れる中で、会社経営に対する想いがより強くなりました。また、日本のサラリーマン社長と若いうちから経営者として経験を積んでいる海外子会社社長との経営者としての経験の差を感じ、若いうちから経営者としてのキャリアを歩むべく、MBAを決意しました。

私はアメリカへの留学・駐在経験があったため、世界中から学生が集まる欧州の学校を希望していました。2年生のトップスクールとなるとかなり選択肢が狭まりますが、ラテンカルチャーやバルセロナの街に魅力を感じ、IESEに決めました。日本人コミュニティが大きいことも、日本でのキャリアを意識していた自分にとっては魅力的な要素の一つでした。

サーチファンドは留学前から決めていたのか

留学前からサーチファンドの存在は知っており興味は持っていましたが、卒業直後のキャリアとしてはあまり現実的には考えておりませんでした。

IESEにはサーチファンドの研究機関やサーチファンドクラブがあるため、学生の間でも認知度が高く卒業後サーチファンドの道に進む人も一定数います。同級生で卒業後すぐサーチファンドの道に進んだのが私含めて5人、卒業数年後にやる予定の者も10名弱おります。IESE 卒業生向けのVCファンドであるFINAVESがサーチファンドへの投資を行っている点も普及に一役買っているというのもあると思います。

私自身経営者になりたいという想いを持ってMBAに行っていましたし、毎日と言って良いほど日本のメディアで事業承継問題に関するニュースを目にしていましたので、自分にとっても日本社会にとってもニーズのマッチしたビジネスモデルだと感じていました。MBA開始直後から準備に邁進する同級生や、クラスにゲストスピーカーとして来る卒業生に感化され、私もどんどんのめり込んで行きました。

ただ、サーチファンドを日本で行うにあたっては、いくつかの懸念がありました。先ず、資金調達です。投資する企業が決まっていない段階でサーチ資金の調達を行うため、投資家からは往々にして会社が見つかったらまた来てと言われてしまいます。この点はサーチファンドが普及している国であればまだしも、まだ前例のない日本で行うのは非常にハードルが高いと感じていました。次に、オーナー社長の第三者譲渡への許容度です。ファミリービジネスは親族内承継が基本ですので、見ず知らずの私に今まで家族のように育ててこられた会社を譲ってくださるのかということ。最後に、大企業でキャリアを築いてきた私が中小企業にいきなり入り、社長としてその会社を成長させていくことができるのかということです。

1点目については、海外の著名サーチファンド投資家からコミットメントを頂き、それをテコに日本人投資家の方にアプローチするという戦略を立てました。IESEは隔年でインターナショナルサーチファンドカンファレンスを開催しており世界中からサーチファンド関係者が集まりますので、学生ボランティアリーダーとしてその運営に携わりネットワーキングをしました。投資家からかなりポジティブな反応を得られたため、資金調達については何とかなるという心証を持ちました。残りの2点を確認するために、2年生の冬休みを利用して日本に帰国し、事業承継問題を抱える企業を数社訪問しました。オーナー社長と直接話をさせて頂き、「都心の大企業で働きたがる若者が多い中、地方の中小企業を継ごうとするなんて面白い」「お金なんてどうだって良いからオレの会社をどうしたいのか、その想いを聞かせてくれ」と言ったお言葉を頂戴しました。会社訪問を通じて、どうやったら中小企業で自分の力を発揮して成長に貢献できるかということもイメージできるようになりました。色々な方から厳しいご意見は頂戴していたものの、自分の中では「イケる」という感覚が芽生え、日本でサーチファンドにチャレンジする決断をしました。

 

MBAをどう活かすか

サーチファンドは、前述の通り資金調達、サーチ、買収、会社経営と様々なフェーズからなります。それぞれのフェーズで求められる能力も変わってきますので、IESEのGeneral Management Programでの学びを存分に活かせるフィールドだと考えています。

資金調達にあたっては、IESEのネットワークをフル活用しました。IESEの教授・卒業生、サーチファンドクラスのゲストスピーカー、前述のインターナショナルサーチファンドカンファレンスで出会った方達に投資頂いていますので、IESEに行っていなかったら別のキャリアを歩んでいたかもしれません。サーチファンドは経験豊富な投資家の支援を受けながら、買収・経営を行っていくモデルですので、どんな投資家について頂くかが非常に重要です。私の場合は、海外投資家については過去にサーチファンドを経験し現在は後輩の育成も兼ねて投資をしている方々、日本人投資家についてはファミリー企業のオーナー社長や起業家等多様なバックグラウンドを持った方々について頂いているので、彼らから日々学びながら活動しております。

私が今まさに行っているサーチ活動においては、IESEの日本人コミュニティも積極的に活用させて頂いております。毎年20名近くの日本人がIESEを卒業しているので、色々な業界・会社に卒業生がいらっしゃいます。業界研究や会社探しをするにあたり、同級生や諸先輩方に大変お世話になっております。

今後、買収を行うにあたってはCorporate FinanceやEntrepreneurial Financeクラスで学んだ企業価値評価やLBOモデル等を活用しますし、会社経営のフェーズにおいてはこれまでの経験、知識、体力、人脈、人間力等を駆使していくわけですから、非常に楽しみです。

 

直近の活動と将来

現在は、自分のキャリアをかけて勝負できる会社と出会うべく、地域金融機関、自治体、経営者団体、M&A仲介等色々な方とお話をさせて頂いております。人の出会いと同様会社との出会いも一期一会だと思いますので、一つ一つの出会いを大切にしていければと考えております。まだサーチ段階なので現時点で5年後・10年後どうなっているかを明確に述べることはできませんが、引き継ぐ企業をその地域を代表する企業に、そしてゆくゆくは当該地域発のグローバル企業に成長させられればと考えております。

サーチファンドは日本ではまだ実績がなく、私自身色々な面で苦労はしておりますが、事業承継、経営者人材不足、地方創生、という日本が抱える諸課題に対する解となり得るビジネスモデルだと考えておりますので、是非成功事例を作っていければと考えております。

 

日本事業承継パートナーズ合同会社

代表・黒澤慶昭が2019年に立ち上げた日本初のサーチファンド。事業承継問題を抱える中小企業1社の株式を譲り受け、代表者自らが後継者として経営を引き継ぎます。企業経営者、起業家、経営コンサルタント、会計士、大学院教授、投資家等の国内外アドバイザーによる支援を受けて運営されており、投資および経営の各ステージで各者の経験・英知を結集して投資先の真の企業価値向上を目指します。

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